3年前の春、自宅に二つの植木鉢が届いた。
ユリ科のショウジョバカマとラン科のシュンラン。ともに、小さな花をつけていた。
柴田町の曳地豊子さん(48)は花を見て胸が詰まった。
「里美がそこにいるようで」
娘の里美さん(当時20)が男女8人グループから暴行を受けて亡くなったのは、
その2年前の暮れだった。
花の贈り主は、当時、里美さんの事件を担当した警察官だった。
里美さんの遺体は、仙台・愛子の山中で、30センチの積雪の下から発見された
警察官は、捜索現場の指揮官だった。「残酷すぎる現場だった」
雪解けのあとに行われた遺留品の捜索。こみ上げてくる怒りを抑えつつ、
あらためて遺棄現場のくぼ地を調べていると、すぐそばで山野草が花を
つけていることに気付いた。 この日は、
里美さんの誕生日だった。
淡いピンク色と黄色の花が、
力いっぱい何か話しかけてきているように見えた。
捜索を終えたあと、警察官は6株ほどの野草を
掘って持ち帰り、自宅の庭に植えた。日当たりがよく、
応接間からよく見える場所を選んだ。
被害者の両親である曳地さんとは、犯人逮捕の
ときなど、節目ごとに連絡を
取ってきた。手紙の中で、野草のことも伝えた。
「春になって花をつけたらお渡ししたい」
翌春、庭の野草は株を増やした。ショウジョバカマはふわっとした花を
開かせ、シュンランはすっときれいに茎を伸ばした。
警察官は鉢に移し替え、別の警察官を通じて曳地さんに届けた。
曳地さんも、遺棄現場には何度か足を運んでいた。
「あんなに暗くて寂しい場所に花が咲いていたなんて」。
すぐにお礼の電話を入れた。
母親の豊子さんは、特にショウジョバカマが気に入った。
花火のような明るさが、娘のように思えたから。
でも、野草は手入れが難しい。株分けはうまくいかず、曳地さん方では、
花びらが落ちると、間もなく草も枯れてしまった。
昨秋、そのことを、久しぶりに警察官から連絡があったときに伝えた。
「また花が咲いたら届けますよ」と返事をもらった。
警察官の庭の野草は、いま小さな堅いつぼみをつけている。
春、曳地さんは、また、あの小さな花に会えそうだ。
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