扇   子  歌舞伎役者 人間国宝  坂東 三津五郎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


扇子を一番多く使う商売は踊りの師匠、落語家、幇間等であるが、

よく使う変わりに扇子の本来の持つ大事な物は忘れられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


しかし、能楽、茶道、香道等ではさすがに大事にあつかわれている。

私が若い頃は、踊りの扇子で稽古の済んだ後、あおいだりすれば

叱られたものだ。

涼味を取るための扇子と踊りの扇子とは、はっきり区別していた。

口上の時に役者の前に扇子を置いてあるのさえ、何の為に置いて

あるのか知らずにやっている人が多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あれは扇子の前に置いたことによって、其処に結界が出来る

つまり、いかなる「貴人」の前でも扇子を置いたことによって、

神とも成ることが出来るんである。

茶道では、床の間に進んで、掛け物を拝見するとき、必ず前に扇子を

横たえ,それから拝見をする。御宸翰(シンカン)→天使の手紙  でも、

国師の書でも扇子を一本おくことによって拝見できる。

踊りや噺家の手に掛かるとそれが、煙管となり船の舵となり、弓となり

棹とも成る。

ひどいときにはおでこやお尻を叩いたりする。

 

 

 

 

 

 

 


踊りで使う扇子でも、余り器用に使いすぎると

父は「そんな使い方をすると高座の踊りになるよ」といって大変

嫌っていた。

これからは扇子の持つ神秘性とでもいうようのものもしってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 


聞きかじり

見かじり

読みかじり                  歌舞伎役者 人間国宝

坂東 三津五郎

昭和40年9月25日

三月書房 発行者 吉川志津子

結 界

 

本来は仏典用語

 

堂塔、伽藍の境域を定めること

僧尼の過失を少なくするために、一定の区域を制限すること

仏道修業の障害となる物のはいることを許さないこと

 

仏道修業の為に僧尼の衣食住地域に境界や制限を設けることを云い寺院の

内陣と外陣の間や、

僧俗の座席の境にもうけた木棚を云う

茶道では、これの工夫により、風炉先屏風の代用品として、道具畳と

客畳とを仕切るのに用いる具を云う。

座障ともいい手前座の上になるところから、座頂ともいう。

主に広間の道具畳の向こうに置き、小間据えにするときにつかう。

 

 

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