名 残 の 茶 事







 

 

名残(なごり)

お茶の世界では10月は暮れです。風炉の最後の月でもあり、1年最後のお抹茶を惜しむ月です。
道具も寂(さ)びた(=華やかの逆)風情のものを使い、もの淋しい雰囲気を出します。
名残を惜しむ日本人の心、
なんだかとってもいいです。

惜しむ心 生かす心 名残の茶事に寄せて『名残(なごり)/去り行く秋を惜しみ』
 十月を茶道では、名残月と呼んでいる。(くちきり/茶摘みの頃に摘まれた茶を

茶壷に詰め、十一月に茶壷の口を開け 一年間その茶を使用する)
茶壷の茶も、残りわずかとなり名残惜しむ気持ちと、五月から半年間をともに過ごしてきた
風炉との別れからくるちょっぴり寂しい気持ちが重なり、名残と言われるようになった。
残茶・余波の催ともいう。
この時期は侘びた風情を好み、掛け軸は墨蹟(ぼくせき)のような固いものではなく、
短冊や詠草(えいそう/和歌が多く、書式も自由で簡略なもの)などを用い、
花は残花や返り咲き、烏瓜などの実のものを入れたり、侘びた花に合わせ花入れも
口が欠けた粗い土の焼き物や、瓢(ひさご/ひょうたんの花入れ)を好んで使用する。
釜や風炉(「欠け風炉」「破れ風炉」)もさることながら、使い込んで一部が
欠けてしまった風炉や底が抜けてしまった釜に、別底を継いだ「尾垂れ釜・オダレガマ」
等を使用する。
風炉の灰まで藁灰(わらばい)や縄の灰を用い、この時期ならではの取り合わせとなる。
茶会を催す亭主にとって、なんともいえないほど味わい深い季節となる。
其処では、欠けてもつくろい、割れても継いで、使いづづけてきたような、亭主が愛情の
念がこもった道具を使って「名残」の気持ちを象徴する。
惜しんで捨てず、新たに生かす心、それは今も見直されているリサイクルの精神そのもの、
  
  夕されば 草葉の露を 吹く風も なお未だ惜しむ 武蔵野の原・足利 義政

野原の薄が穂を出し始めるころ、今まで其処ここで咲き競っていた可憐な花々も、
最期の秋をむかへる。
最盛期の面影を宿したその風情をくみ『なごりの花』と呼んで10月の花とする。
生ける花入れも時の流れを移す時代物の籠や竹、焼き物では、端正な中国の陶磁より
國焼きと呼ばれる日本各地の陶器がふさわしい。
 
  「寄せ香」「付け干し」

香合は、木や漆の蓋ものに白檀、伽羅などの香木を入れるが、10月にかぎって、
「寄せ香」や「付け干し」をする。
風炉の時節の使いのこりを取り集める心で、香を2,3種入れたり、香木を切るとき
にでた切り端を残しておき、その砕片を練り合わせて、白檀に付けて「付け干し」とする。

中置き

風炉点前の時、風炉を道具畳の中央に置くことをいう。
秋もようやく深まり、朝夕冷気を覚える季節に、客に火気を近づけ、反対に水指を遠ざけ、
暖かみを感じさせようという心尽くしの扱いである。中置

夏の間、火は暑いからと部屋の隅に追いやられていました。
そろそろ火の気も恋しくなる10月、
待ってましたとばかりにお客様の方へ風炉が近づいてきます。
優しい思いやりです。

それに伴い、いつもは右側にある水差しも、風炉の左側へ。
狭い隙間には細めの水差し!

 

10月初旬から開炉までの季節に行う。
風炉がお客様の方へ近づき、いつもは右側にある水差しも、風炉の左側へ。
狭い隙間には細めの水差しを置き涼しさを感じさせる水を客より遠ざける

 名残花

盛りを過ぎて散り残った花の総称。普通、茶花を使うときは開花期よりも少し
早めのものが喜ばれるが、盛りを過ぎても咲き残ったものや遅れ咲きのものは、
名残花と称して、名残を惜しむ意味で用いる
籠に名残を惜しんでたくさんの花々をいける。


 口切り(くちきり)の茶事

開炉のころに今年採れた新茶がやっと拝める。
茶壷に詰められた新茶の封印をようやく解く。

今年のお茶を初めていただく=新茶明けましておめでとう!
ということで、お茶の世界では正月なのです。
口切りの茶事は、お雑煮や祝い膳がでることもある。
壷の中には、まだ粉になっていない「てん茶」という状態で納めてあるので
濃茶をいただく前に石臼でお茶を挽く。
亭主は練った濃茶を一番最初に味見(?)をする。

鳴子(なるこ)季語

田畑の鳥おどしの1つ。
実りの秋の象徴的な言葉です。

花 入 れ

 古銅・青磁砧形(キヌタ) 伊賀・信楽・備前旅枕(姥口)うずくまる 生爪
 古銅・竹釣船 穴子もんどり籠 鉈鞘籠(ナタサヤカゴ) 矢筒籠 箸籠 虫籠
 山地籠 荒組籠 手付け相生籠 瓢箪籠 唐物籠

 

香 合


風炉(白だんなどの香木)
  ・漆香合
   唐物・・・・・彫漆類(堆朱・堆黒・ぐり・その他)
   和物・・・・・根来・蒔絵・鎌倉彫・その他
   木地物・・・古木・竹・桑等

炉(練香)

原材料となる密や梅の木が8世紀頃渡来していて、平安時代には仏前で焚くのとは別に、室内で焚く「空薫物」

(そらだきもの)や、香りだけでなく、それらにまつわる教養や品性を競い、同時に季節感を楽しむ「薫物合」

(たきものあわせ)がありました。
薫物は現在の「練り香」にあたり、沈香、白檀、丁字、甲香などの香木を粉末にし、好みに応じて麝香などを加え

梅肉や蜂蜜で練り固めたものです。それらの処方はそれぞれ工夫され秘密のもとに作られ家代々に伝えられた。

「薫物合」は、各自が独自の香を持ちよってそれぞれの香りを鑑賞したり、その香りのイメージに合わせた和歌を

詠んだりするもので、よりよい香りの薫物を調製為の研究が盛んになり、すばらしい香りが創造されるように

なる。
この時代の代蕪Iなものに「六種の薫物」(むくさのたきもの)として梅花(ばいか)、荷葉(かよう)、

侍従(じじゅう)、

菊花(きっか)、落葉(らくよう)、黒方(くろぼう)があります。
紫式部が著した「源氏物語」にも「梅枝の巻」をはじめ薫香にまつわる話が数多く登場します。


  ・陶磁器 
   唐物・・・・・交趾(こうち)・染付・青磁その他
   和物・・・・・織部・志野・仁清・その他
ベトナム、カンボジア、インドネシア等に生育する沈丁花科の木にバクテリアが作用して樹脂化したもの。
自然条件、樹齢など多くの要因が整わないと生成しません。
樹脂化した分だけ比重が重くなり水に沈むので「沈香」と言われる。
年代を経たものに高級品が多く、特に最良のものを「伽羅」と呼びます。
またこれら沈香類には鎮静効果があると知られています。

六國五味

 

沈香の持つ複雑な香りを言葉にして表現することは大変困難なことで、
古来より多くの人が様々な試みを行ってきました。
その代表的なものが現在でも香道で使われている
『六国五味』です。(りっこくごみ)
六国はその木所、つまり産地により香木を6つに分類する方法として
香道の祖のひとり志野宗信の苦心の作で
1570年代から17世紀初に完成したと見られています。
現在の使われ方を見ますと産地というよりは香質を示すと考えられます。


五味は日本語の香りの表現が少ないため味の用語を借り、
『甘、辛、酸、苦、鹹(しおからい)』と分類する


風炉・炉兼用
 ・貝類、金属製その他

 炭手前の時に炭を入れて最後に香をたきます。
 その香を入れるものを香合という。

 瓢・鶉(うづら)・柿・栗・雁の絵や形の香合
 菊絵巻 置上 堆朱(ついしゅ)・青貝指月布袋(ほてい) 月見舟 
 月下牧笛(ぼくてき) 三日月など秋草 月にちなむ絵巻 塗り物香合

 

 蜻蛉(とんぼ)地紋  鐶付きの釜(かんつき) 菊水地紋 菊形釜 瓜形 笛釜 
 百佗(ひゃくだ)釜 尾垂れ釜(おだれ) 秋草 竹地紋 芦雁地紋 兎鐶付き
 欠風炉(かきぶろ)→破れ 

 

風 炉

 鉄破れ

 

敷 き 瓦

 古瀬戸

 

水 指

 染付芋頭(いもかしら) 浮見堂(うきみどう) 葡萄棚 山水画 
 紅毛莨葉(オランダたばこのは)信楽鬼桶 萩 高取 丹波 唐津などの長耳
 管耳(くだみみ) 笹耳 など  細水差し 種壺 信楽芋頭

 

茶 杓

 銘の如何による

 

茶 椀

 安南蜻蛉手(アンナントンボ) 古井戸 粉引き 刷毛目 蕎麦 柿の蔕(ヘタ)
 斗斗屋(ととや) 釘彫伊羅保 紅葉呉器(ごき) 堅手蓑虫(みのむし) 楽

 

秋 の 銘

 虫の声 日暮れ 菊の露 萩の宿 虫の声 秋の声 初雁 雁のたより 白露 野分
 月影 初紅葉 月のしずく 深山地 旅の雁 初時雨 山地の菊 秋澄む 
 入り会いの鐘 虫喰い 秋の歌 蔦紅葉 深山路 秋の蝶 いがぐり 名月 夜寒
 豊年満作 落ち葉籠 鹿笛 小春日和 寒露 霜降 秋澄む 龍田姫 秋時雨 銀杏落葉                

 

名 残 の 茶

 10月は茶の湯の歳末にあたる
 いわゆる「名残の茶」の季節 
名残の花など秋の名残の意味に響くが、実は、茶壺の茶の名残という含み
春につまれた新茶は、葉茶のままで、茶壺に詰められ夏を越して、初冬11月になって初めて使われる。
従って夏から秋にかけては、昨年の冬から使い始めてきた古茶を、続いて使っているので、
秋も深まり10月ともなれば、昨年のお茶の残りはほとんどわずかなものとなってきます。
前の年のお茶も残りすっくなくなって、深まってゆく秋の気配とともに、何となく心わびしいお茶の時説。
この時期に、「名残の茶」の名がある。名残の茶はすべて、「わび」の趣が一段と深く周落の時を迎えた
万象の姿を背景として、道具の取り合わせ、床の間の花にも、ことさら、ものの哀れが深くなる
冷気をおぼえる茶室では、風炉を客付けに、水指を遠ざけ、風炉の陰に、これが中置き。
中置は風炉を道具畳の真ん中に据え、敷板や敷瓦に風炉を据えることもあれば、
竹台子や長板の中央に風炉を置くこともある


水指も細い小ぶりの水指
風炉の火を客に近づけて、冬近い茶室の中で亭主の心遣いが示される。
風炉は大振りの鉄「前欠き風炉」これらの鉄風炉は「かきあげ」→風炉の中に丸く押した丸灰に
1センチあまりの間隔で灰をかき上げ筋を入れる。
鉄の一部を打ち砕いた「わび」の気を強調する破れ風炉も使われる
取り合わせの道具も、渋みやさびのついたものを使用する

 6代覚々斉が信楽の水指に込めた心に通るであろう。

 

利休信楽という古風の水指に「三夕」(さんせき)と銘をつけておいた
新古今の三夕の歌の心をこの一壺にこめようとしたのである

 1    見渡せば、花も紅葉もなかりけり

            浦の苫屋の 秋の夕暮れ    藤原定家朝巨

 2   心なき身にもあわれは知られけり      (古今集の選者)

                鴫(しぎ)立つ沢の秋の夕暮れ   西行法師


 3   寂しさはその色としもなかりけり

           槇(まき)立つ山の秋の夕暮れ  寂蓮法師(出家) 

   解説

1 見渡したところ、美の代表とされている花も紅葉も、すなわち美しくて趣のあるもの
  といっては、何もないことだ。ただ止めどなく、寂しさの漂っているこの海辺のとま
  ぶき小屋の建っている秋の夕暮れよ       
  苫屋→スゲ、かや、わらで屋根を葺いたのが、苫屋 ここは、もちろん漁師たちの粗
  末な小屋をいっている

2 煩悩を絶っている世捨て人で、風情を解しないわたしにさえも、しみじみとした味わ
  いが自ずから感じられることだ、シギが飛び立つ沢のこの秋の夕暮れ

3 この寂しさは特に一つの限られた色かたち故からというものではないことだ
  常磐木のはえている山の秋の夕暮れの寂しさ。

 

 


  

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