〈染みついた鉄のにおいがする髪をとかして思うもはや職人〉。
▼青森県の工業高校3年の女生徒、荒谷夏希さんの詠んだ歌だ。
▼北海道の農業高校3年、田守健太郎君は
〈幼き日遊び場だった畑作地今では父と僕との職場〉とうたう
▼毎年この季節、東洋大学から届く「現代学生百人一首」を楽しみにしている。
急ぎ足で過ぎる青春の日々を、虫ピンで留めたような言の葉の数々。22回目の今年は全国から6万3千首が寄せられた
▼入選作のテーマは様々だが、何と言っても人を恋う年頃だ。
〈君の名の漢字を辞書で引いてみる心のしおりそうっとはさむ〉
高2、宮下唯(ゆい)。
〈こんなにもキレイにノートをとるのはね君に「貸して」と言われたいから〉
高2、榊原香菜
▼そんな胸に、孤独や憂いのさざ波も立つ。
〈生も死も書けば一文字十五夜のすすきの中にぽつんとひとり〉
高1、安藤弘理(ひろみち)。
〈見つけたらいけない気がする何故だろう青い色した幸福の鳥〉
高3、鎌田美紅(みく)
▼でも頑張る。
〈駆け抜ける百メートルをおもいきりいらないものが削(そ)ぎ落とされる〉
中3、鈴木花音(かのん)。
〈限界は僕が思うほど近くないぶつかるまでは走ってみようか〉
高1、村崎愛奈(まな)。
女の子の使う「僕」が、意外と爽快(そうかい)に響く
▼大人に言いたいことだってある。
〈平然と使われ続けた汚染米汚れているのは米か心か〉
高3、合田(ごうだ)佳祐。
そして政治家にも。
〈日本にもオバマ旋風巻き起これみんな待ってる頼れる総理〉
高1、松村かおり。
Yes we can。希望の灯(とも)る世の中を未来の有権者も待っている。
天声人語 2009/01/16 朝日新聞より